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タイトルなし

20061117012202
その男は優しい笑顔で「こんばんは」と言って近付いてきた。
時間は深夜零時をまわったところだ。一つ溜め息をつき「こんばんは」と言って自転車を止める。案の定その男は「今自転車の盗難が増えてまして念のため」と言って自転車のハンドルに手をかけてくる。深くかぶった帽子と暗闇のせいで目元は見えないが口元は穏やかさを漂わせている。しょうがないかと思い「どうぞ」と返事をする。
しばしの足止め。なんとなく携帯の液晶画面に目をやり時間をやり過ごす。充電がきれかかっている。
その男は無線を片手に登録ナンバーを伝え何やら話している。ときおり聞こえる笑い声。昔から待つのは嫌いだ。気持ちは一層苛立ってくる。時間のせいか辺りは妙に静かで人通りもない。
しばらくして無線の音が消え、静寂をやぶりその男が口をひらく。
「この自転車は盗難車ですね」
一瞬何のことだかわからなくなる。苛立ちと驚きが混ざり合い混乱となって頭の中を駆け巡る。「そんなはずわない。これは自分で買ったもので鍵も自分でもっている。紛れも無く自分の自転車であることは確かだ。なのになぜ?」
「何かの間違いだ!これは自分の自転車だ!よく調べてくれ!」
やっとの思いで言葉をはっする。
しかし男は言う。
「皆そう言うんですよ」と。何事もないかのように。
気のせいかその男の口元から一瞬穏やかさが消えたような気がした。耳に残る笑い声。何を話していたのか。
「署までご同行願えますか?」穏やかに男が言う。
信じられない。必死に自分の頭の中で自問自答を繰り返す。「これは自分のじゃないのか?自分が勘違いしているのか?」……「そんなはずはない。」
その時一つの疑問が頭をよぎる。「目の前に立つこの男は本物か?」
帽子をかぶり制服を着ているが。一度疑いだすと全てが真実味を失ってくる。ほつれた糸。とれかけたボタン。もはやこの男を本物だと思う方が難しくなってきた。
ためしにと思い「家に連絡したい」と言ってポケットに手を入れようとする。その瞬間、男が右手を腰もとへ動かす。そして言う。
「連絡はちょっと。携帯も預かります」と。
「ありえない。万が一これが盗んだものだったとしても、それにしてもこの男はやりすぎだ」
疑いは確信へと変わる。「この男は偽物だ」
それは多分間違いないだろう。ただそれにしてもわからない事が多すぎる。男はなぜ本物を装って近づいてきたのか。目的は何なのか。自分をどうするつもりなのか。目の前の男は誰なのか。頭の中をおおう深い霧。ただ一つわかっている事はこの男と向き合っているのは危険であるということ。この場を動くのは容易ではないが。
無言で男が自転車を挟んで手を伸ばしてくる。
「ちょっとまて!」一歩さがる。考える時間をかせがなければ。
「窃盗にしてはやりすぎじゃ?殺すつもりか?」冗談混じりで言ってみる。男が笑う。
「何言ってるんですか?さぁ携帯をこちらへ」
その時不意に一台の車が横を通り過ぎる。暗闇の中に突然現れた眩しいほどの光。そのヘッドライトが男を照らす。フラッシュがたかれたカメラのシャッターがおろされるように目の前の現実が一枚一枚切り取られていく。その絵がゆっくりとめくられる。静かに暗闇から現れる男の素顔。
「あぁ…そういうことか」
男は静かに言う。
「何日でも待ちますよ。私はこの日のために生きてきたのだから」と。

目を覚ます。そこが自分の部屋のベットの上だと気付くのに少し時間がかかる。
「夢か…」
最悪の目覚めだ。喉が渇いている。冷蔵庫から水をだし口に含む。時計は12時をまわったところだ。カーテンをあける。その先に広がる闇。
「暗い…夜?」
そんなに寝ていたつもりはない。ただいつ眠りについたのかの記憶がない。昨日の記憶がぼんやりと霧に包まれた中ある一つの異変に気付く。それはテレビの電源を入れた時だった。なんとなくその映し出される映像に目をやる。
「ちょっと待てよ…この映像は見たことがある。昨日?」
「おかしい」。昨日と同じ番組が今日やっているはずがない。しばらくその映像を見ていたが、どう考えても同じだ。再放送にしては日が近すぎる。
「何かが変だ」。今が夜であることも、机に置かれた見覚えのある手紙も。部屋に漂う生暖かい空気。携帯の充電がきれている。不意にポケットの中で手に引っ掛かる金属の鍵。「俺は自転車なんか持ってない…」
突然家のチャイムが鳴る。確かこの時間…昨日も鳴った。偶然だろうか。いやもはやそうは思えない。
「昨日が繰り返している?いやそんなことはありえない」。
現実で受け取った手紙。それを手に自転車で走りだした夢。暗闇の中で見た男の顔が脳裏から離れない。
「いったい何がどうなっているんだ」。背中を静かに流れる冷たい汗がシャツを湿らせている。
ドアノブに手をかけながら思う。「多分もう引き返すことはできないのだろう」と。ずっと前から決まっていたのかもしれない。
ゆっくりとドアを開ける。そこに誰もいないのは知っていた。郵便受けに差し込まれた一通の手紙。振り返ると机の上にも同じ手紙が。もう読まなくても内容はわかっている。「あなたに会いたい」と。手の震えが止まらない。いつの間にか喉が渇いていた。

これが悪い夢であってほしいと願う。きっと目が覚めればそれはいつもと同じ日常で、いつもと同じ一日が始まるのだと。
ただもはや夢と現実の境界線は歪みかけていた。

信じられないが日付が進んでいない。訪れた二度目の今日。「としたらあれは本当に夢か?どこからが?昨日?夢?今日?」
歪んだ境界線の隙間から、徐々に二つの世界が交ざりあっていく。手元にある二通の手紙。見知らぬ金属の鍵。これはハジマリにすぎないのだろう。
自然と足は外に向かっていた。自分を誘い込む一台の自転車。鍵穴に鍵が吸い込まれていく。走り出す自転車。まるでこの世界には朝が訪れないような暗さだ。

その男は「こんばんは」と言って近付いてきた。ただ口元は崩さずに。
終わりは始まりにすぎないが、始まりは終わりを意味する。
もはやこれが夢か現実かということは問題ではない。多分この男は待っているのだろう。この先もずっと。「そうか…この男の時間もあの日から進んでないのか」。
いつもより静かな夜。あの日から止まった時間。繰り返す今日。不思議と笑みがこぼれた。

ハッピーエンドのお話にも必ずその続きがあって、それがハッピーエンドとは限らない。一瞬のハッピーエンドと永遠に続くバッドエンディング。夢と現実の境界線なんて元々存在しないのかもしれない。

終わりには人それぞれの『形』『色』『感触』『匂い』『温度』があって、それはもはや感じ方の違いでしかない。
子供が太陽の絵を真っ青に書くように、触れ方を少し変えればどんなこともハッピーエンドになりえるものである。
ただどうしても受け入れられないことも、まれにある。
そんな時は、その辛さを忘れ去ってしまう前に、そのことだけを考えてほんの少しだけ泣けばいい。
一瞬のバッドエンドと永遠に続くハッピーエンディング。
触れ方を少しだけ変えるだけ。

この物語は僕の作り話で書き終えた時はバッドエンドのつもりでした。
でも………実はハッピーエンドなんです!
言ったもん勝ち!
やっぱり終わりはそうしたくなったんです。だって今そんな気分だから。ただそれだけです。ただそれだけのことなんですけど、それが全てだったりするんです。
人と話すのが恐かったり、新しい事を始める勇気がなかったり、思い通りにいかなかったり、自分が嫌になったり。
でも日常なんてそんなもの。
イキルのは辛いけど悲しいことじゃない。
首にネクタイをまくのも、きっとわるくないと思う。

酔っ払って友達ともう何十回もした昔話をして一晩中笑う。
好きな女がワガママを言ってくる。
母親の作った角煮はいつもうまい。
もしこのまま終わるとしてもそれはそれでかまわない。
そんな気分だ。
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