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タイトルなし

20070124183146
一マス目

「なんで俺なんだよ……」
男は溜め息まじりで呟いた。
今まで生きてきた人生、平凡という言葉が一番あてはまるかもしれない。特に良い事もなく悪い事もなく。サイコロの目はいつも二か三ばかり。そりゃたまには六もでるけど、そんな時は決まって進んだ先の目は『一回休み』。そのくせ『振り出しに戻る』なんてマス目は何処にも見当たらないし。少しずつゆっくり進んできた。そんな自分がなぜ。

病院で自分よりも若い医者が言った。
「もってあと三日ですね」と。感情がない声で。
一瞬何のことだかわからなくなる。三日?何が?自分の命が?なぜ?なぜ?なぜ?
「どういう事ですか?ジョーダンなら笑えないですよ」
何が?という表情をみせる医者。笑え。そしてジョーダンだと言え。
聞きたいのはこっちだ。
「ちゃんと説明して下さい。三日で死ぬってことですか?」
「そうですね。もって今日を入れて三日。今すぐ入院して頂ければ一週間はもつと思います」
まてまてまて。何だこれは。どう考えても急すぎるだろ。
こういう話をする時はもっとなんか雰囲気とか口調とか表情とかそういったものを大切にするべきだ。そうすれば聞かされる方も心の準備というか、「あれ?もしかして…(涙)」みたいなことになるはずだ。
それをこの医者はコンビニで「弁当温めて下さい」くらいの感じで言いやがった。多分こいつは女と会ってすぐ「ホテル行こうか」というタイプの人間だ。……羨ましい。が許しがたい人間だ。

信じられなかった。信じろうと言う方が無理だ。あと三日で死ぬと言われて「あ~そうですか。じゃああと三日を頑張って生きます!」なんて言える奴はもはや人間じゃない。そんな事言えるのは地球征服を目論む宇宙人か、もしくは生まれて四日目の蝉くらいだ。
私は地球征服を目論む蝉ではない。

「なんとかならないんですか?」
「残念ですけど」
残念ですけどだと。ふざけるな。その残念とも思っていない顔に自分の拳が伸びる。
倒れる医者。続けざまに足の裏を腹に叩き付ける。そして言う。「いつ死のうが関係ない!大事なのは今だ!」。看護婦から上がる黄色い声。その口を封じるように熱い口づけ。「病院では静かに」と背中越しに声をかけて立ち去る。
のはずだった私の拳はいつの間にか開き、その開いた手は医者の肩に乗せられ口からは少女のような声がもれていた。
「助けてください」
哀れめの目線をおくる中年看護婦。医者の溜め息。
言ってすぐ後悔した。できるわけがないんだ。できるんだったらとっくにやっている。目の前に座る男が白衣を着た悪魔でなければ。
「入院の手続きをしましょう」と声をかけてきた中年の看護婦に精一杯強がってみせ病院を後にした。消しゴムのカスくらいのプライドが自分をここに留まらせることを拒んだ。
看護婦が若くてダイナマイトボディの女なら話は別だったが。

外を歩きながら気持ちを落ち着かせようと出来るだけでゆっくり歩こうとするがどうしても早足になってしまう。立ち止まると発狂してしまいそうだ。
あと三日。信じられないがどうやら本当のようだ。一応日付を確認してみるが残念なことに今日は四月一日ではない。
混乱する頭の中で必死に考える。何をすべきか。残された時間で。『死ぬ気になれば何だって出来る』という言葉は、『死を目の前にして初めて行動を起こせる』という意味なんだろう。死ぬ気になんて簡単になれるわけがない。
自分は何がしたいのか。今だったら何だって出来る。いや今までだってできたはずだ。でもそれをしてこなかった。多分この先も気付かなかっただろう。でも今気付いた。ただ時間の期限がある。それだけだ。遅かれ早かれ訪れるのなら、あと三日で訪れようと問題……ある。大有りだ。冗談じゃない。やっぱり死にたくない。どんなにグタグタで惨めな現実でも生きていたい。「あ~だるい」とか「暇すぎて死んじゃう」とか言いたい。
おもいっきり泣いた。近くにあるものを薙ぎ倒した。叫んだ。喚いた。鼻水と涙とよだれで顔がビシャビシャになった。狂っていたかった。このままずっと。

どのくらい時間がたったのだろう。気付くと自分の家のドアの前に着いていた。覚悟を決めよう。大事な事に気付けたんだ。まだまだいける。三日後に死ぬんじゃない。生きるんだ。あと三日を。

静かに手が首元に伸びてくる。三日間かけてゆっくりと首を締めるように。まだ息は苦しくない。冷たい手の感触を首に感じているだけで。

いつも通り夜が訪れる。手の中にはサイコロ。目はもう一しかでない。それを一日一回振り一マスずつ進む。ゴールまであと三マス。充分だ。何だってできる。
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