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タイトルなし

20070324040913
二マス目

眩しいほどの陽射しと共に朝は訪れた。太陽は僕の個人的事情なんかにはかまっちゃくれない。
「空気よめよ」
小さい声で言ってみた。無視か。
昨日のことは夢だったのではと一瞬思ったが、そんな考えはすぐに自分の頭から追いやった。気を抜けば昨日の決心が揺らいでしまう。迷いや恐れは昨日捨てたはずだ。ただ回収車はいっこうに来る気配はない。

いつだってそうだった。先走るの想いや希望だけでそれについていかない体。
明日から明日からって自分はいったいいくつまで生きるつもりだったのか。その頃には多分本当に体がついていかないだろう。

明日が必ず来るなんて誰が決めたんだ。
いつかはできるなんて誰が言ったんだ。
鏡の中の自分に中指を突き立てる。
うん。二度とやらないことを自分に誓った。

残された時間で自分の本当にやりたいことを必死で考えた。
やりたいこ。大事なもの。金?家?名誉?地位?強さ?そんなものあの若造の医者の一言で全部吹き飛んでしまった。今まで必死に守ってきた、手に入れようとしてきた全てのもの。
なんだよ!嘘なんかつかなきゃよかった。バカみたいだ。全部幻影だったなんて。
今さら何か始めるのはいままでの自分の人生を否定するみたいでひどく虚しい。

「将来の夢」や「やりたいこと」をみつけることは確かに素晴らしいことだ。でも何にもやりたいことが無いってことは、必ずしも悪いことじゃない。
気持ちが折れなければ「何も無い今」に、ちゃんと「自分の匂い」が残る。匂いが残れば、その匂いがそこに自分が「いた」ことをおしえてくれる。
何かに向かっている人はよく言う。
「これ以外やることがないんだよ」て
そんなもんなんだよ。多分。
考えるよりもまず匂いをかいぐことさ。きっとうまくいくから。

親父に会いに行こう。それしか思いつかない。別に特別なことじゃなくていいんだ。

母親は僕を産んでその後すぐ息をひきとった。僕を産むことはかなり危険だったと後で聞かされた。おろすことを勧めた医者に「無事産まれてくればそれで充分です」と母親は言ったらしい。そんな母親の顔は写真でしか見たことがない。
手の温もりも、やさしい声も記憶にはない。僕と引き換えに命を落とした母親。
「ごめんね。ありがとう」
一度でいいから抱きしめてそう言いたかった。

久しぶりに会う親父は何も変わっていなかった。無口で照れやな親父。家に帰ってくるのはいつも遅かった。一緒にご飯を食べたことは数えるくらいしかない。でもいつも優しかった。大きかった手。頭を撫でてくれた。
親父は会うと必ず言う。
「約束守れなくてごめんな」と。もう何十回も聞いた同じ言葉。
「昔のことだ。もう忘れたよ」
「そっかぁ」
「うん」
「ありがとな」
「うん。いいんだ。」
「ああ」
「父さん」
「ん?」
「父さん」
「わかってるよ」
「うん。でも言いたいんだ」
「じゃあ聞きます。どうぞ」
「照れるな」
「俺に似たんだな」
「ごめんね。ありがとう」
「ははは」
「何だよ」
「やっぱりお前は母さん似だ」
抱きしめることはできなかったけど、言えてよかった。

親父は僕が7才の誕生日の前日に病気で死んだ。
誕生日に一緒に動物園に行こうねって約束してたのに。約束を破られたことが悲しかったのか、親父が死んだのが悲しかったのかわからなかったけど、涙が止まらなかったことを覚えている。

なんだか胸につかえていたものが取れたみたいで少し気分が晴れた。来てよかった。
親父の墓の前から立ち去ろうとした時不意に二本の人差し指をけつの穴に差し込まれた。
「いたっ」
驚いて振り向いた瞬間、自分の目を疑う出来事が起こった。
幼い男の子が立っていた。幼い頃の自分そっくりの。
まさかな。ありえない。似てるだけか。それにしても似過ぎている。
「カンチョーだ!」
「言われなくてもわかったてる。何のつもりだ!」
「ニヒヒ」
「誰だお前は?」
「人に聞く前にまず自分が名乗れぃ!」
生意気なガキは嫌いだ。
「僕ただしって言うんだ」
名乗らせろ。
「おっ奇遇だな。俺もただしっていうんだよ」
顔も声も名前までも一緒。性格は同じだったとは思いたくないが。
親父の墓の前に突然現れた幼い頃の自分そっくりの少年。何の意味が?考えすぎか。
「え?本当に?凄い!一緒だ!ワーイワーイ!カンチョーだー」
「いたっ」
意味がわからない。
「こんな所で何やってるんだ?親は?」
「う~んとね~。う~んとう~んとうんこ!」
生意気で下品なガキは大嫌いだ。
「はやく親のところに帰れ」
「親いないんだ」
「え?そうなのか」
「うん。」
「それは寂しいな」
「ううん。寂しくない。だっておじさんいるもん」
「今会ったばっかだろ」
「お腹減った!」
「じゃあ家帰れ」
「ムググ」
幼い頃の自分に似ているせいかなんだか憎めない。
「わかったよ。なんか食いに行くか?」
「やったー!イェーイ!すし行こすし!しーすー食べたい」
「どこで覚えたんだそんな言葉。ハンバーグだ」
残された時間はあと二日しかないというのにハンバーグを食べに行くことになった。ただこいつと話していると自分が死ぬことなんてどうでもよくなってくる。不思議なガキだ。二人で車に乗り込み近くのファミリーレストランに入った。
「うまいか?」
「うん!うまい!おじさん食べないの?」
「ああ。あんまり食欲がないんだ」
「だめだよちゃんと食べないと。」
「そうだな。じゃあ一口くれ」
「やだ!これはだめ!これ僕のだもん」
「わかったよ」
「なんでも好きな物食べていいよ」
「俺の金だ。食べたら帰れよ」
「え~!やだぷー」
「帰れ!」
「実はね僕ねこれ内緒なんだけど正義のヒーローなんだニヒヒヒヒ」
「あ~敵はけつの穴の中にでもいるのか?」
「おじさんを助けに来たんだ!あっ内緒なのに言っちゃった!ワーイワーイ」
何がそんなに楽しいのか全く理解できないが、悪い気がしないのがせめてもの救いだ。
「それはありがたいな。食べたら帰れよ」
「え~じゃ明日も遊ぼ!」
「明日は無理だ」
「なんで?」
「忙しいんだ」
「忙しいって言う人ほど暇だったりするもんだよ」
なんなんだこいつは。
「じゃあな」
「ムググ寂しいよ~」
「気をつけて帰れよ」
「カンチョーだ!」
「いたっ!おいただし!あれ?」
振り向くとそこにもうただしはいなかった。
「おーい!ただしー!」
返事はない。なんだよ。寂しいとか言うわりにはあっさり帰りやがって。まぁいいか。
気がつけば太陽はいつの間にか沈み夜が迫っていた。今日ももう終わりか。早いな。早過ぎる。
車のシートに体をあずけながらふと考える。
今日は何ができたんだろう。こんな過ごしかたでよかったんだろうか。もっとやるべきことがあったんじゃないだろうか。頭の中を巡る疑問。
「関係ないよ。」
「ただし!お前なんでここに」
「言えたじゃん」
「何言ってるんだ」
「ずっと言えなかったんでしょ」
「どういうことだ」
「明日は何する?」
「え?」
「ニヒヒ」
「ちょっとまて」
「じゃあね。とうっ!」
「おいただし!あれ?おい!ただしー!」
どこにもいない。なんなんだいったい。あいつは誰なんだ。幻か?それとも自分の頭がおかしくなったのか?
「僕は正義のヒーローなんだよ」
頭の中で声がした。
「ははは。ははははは。まぁいいか。どうでもいい」
そうだ。明日は何をしよう。何をすべきかじゃないんだ。何がしたいかだ。

手の中にはサイコロ。目はもう…多分一しかでない。でももしかしたら違う目がでるかもしれない。だってよく見たらサイコロには二も三も四の目もあるから。まぁ多い数がでても困るんだけど。
明日は何の目がでるんだろう。一の目。わかってる。
でもそれは今までの一の目とは少し違う気がする。

なんだかワクワクしてきた。明日が楽しみだ。こんな気持ちいつ以来だろう。
想像する明日の自分の隣にはただしがいる。
けつの穴にぐっと力を込めながら、そんな今をぐっとかみしめる。
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タイトルなし

20070307010300
空を見上げたら雲があってちっちゃな月と紺色の世界が広がっていた。
「生きてる実感」って以外にこんなことだったりする気がした。
昼間は春の匂いがした、今は風が冷たい。夜。
「些細ないいこと」は僕の頭の上にあった。

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