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タイトルなし

20070405021024
三マス目

「この子の名前ね『ただし』にしようと思うの。」
「ただし?」
「ええ」
「なんかもっとかっこいい名前のほおうがいいんじゃないか?」
「え?」
「つよしとかたくやとか」
「いいの」
「ただしか」
「世の中をただすみたいな、なんか正義のヒーローみたいじゃない。フフフ」
「正義のヒーローってお前」
「『ただし』だめ?」
「お前がいいならいいよ」
「本当に?」
「ああ」
「嬉しい。ありがと」
「どういたしまして」
「ねぇあなた」
「ん?」
「ちょっと目瞑ってよ」
「なんだよ急に」
「いいから」
「わかったよ」
「フフフ」
「何?」
「あなた好きよ」
「え?」
「あなたがいて『ただし』がいる。もう何もいらない。」
「お前もいるしな」
「・・・そうね」
「ん?どうした?」
「いえ。なんかあったらこの子に助けてもらってね」
「なんかあったらって」
「正義のヒーローなんだから」
「ははは。そうだな」
「フフフ」
「元気に生まれてくるといいな」
「大丈夫」
「痛っ!え?何?」
「かんちょう」
「何だよ急に」
「なんかあなたのお尻可愛かったから。あは」
「どうしたんだよ」
「フフフ。おまじないよ」

不思議な夢だった。あったかくて優しくて、母親の胎内にいるみたいだった。夢の中でみた母親の顔はぼやけていたけど、すこし寂しそうに笑ってた。かんちょうしたのにはびっくりしたけど。

夢からさめると体に普段以上の重みを感じた。もう起き上がることもできないのか。
最後の一日だというのに。このまま何もできず、ただ天井だけをみつめて終わっていくのかとおもうとひどく憂鬱になる。
ただしにも会えないのか。いや・・会える。と言うか目の前にいる。布団の上で重力になっているのはただしだ。
「おじさん起ーきーろー!」
「起きてるよ」
「おきろっ♪おきろっ♪」
「お前がいるから布団からでれないんだ」
「ヤッホーイ」
「お前どこから入ったんだ」
「ドア」
「鍵は?」
「あいてたよ」
「ていうかなんで家知ってるんだ」
「う~んとね、う~んとう~んとうんこ!」
人生最後の朝は最低の朝になった。
どうやったら朝からこんなにテンションが上がるのか誰か教えてほしい。大人になるということは、こういうことなのかもしれない。
「今日はなにする?」
「そうだな~。何しようかな」
「僕動物園行きたい!」
ちょっとまて。今日は俺の最後の一日だぞ。あやうく喉まででかかったが飲み込んだ。苦い。
「今俺にやりたいことを聞かなかったか?」
苦さの残る口で正論をぶつけてみた。
「ぷ?」
無駄だった。そうだ。こいつはただしだった。所詮正義のヒーローにはショッカーの一撃などキクはずがない。
「実は僕今日誕生日なんだ」
以外な言葉がただしの口からこぼれた。なんとなく生まれた日も一緒な気がしていた。信じがたいがこいつは・・そんなわけないか。
誕生日に動物園。そこは一緒なのか。親父の顔が一瞬頭をよぎった。謝ってる姿ではない。
気がつけば自分ももう親父とかわらない歳になった。誕生日は明日だ。
「動物園だめ?」
「実は俺動物園な・・」
「うん」
「行きたかったんだ!」
「え?本当に?なんだよ~行きたくないのかとおもっちゃったよ~」
「へへへ。行くか?動物園」
「うん!行く!行く行く!動物園行っくー!」
「ははは」
「わーいわーい嬉しいな♪」
「ちょっと待て!かんちょうは勘弁してくれ」
「うひひ」
「よし。行くか」
「うん」
「帰りにケーキ買ってお前の誕生日パーティーもするか」
「うん!するする!ぱーちいぱーちい!あっ!」
「どうした?」
「プレゼントも欲しい!」
うん。調子に乗るな。

親父と行けなかった約束の動物園。ただしと二人で車で向かった。
この頃にはもう、自分が明日死ぬことなんて頭の片隅にもなかった。
今が楽しかった。ただしと一緒にいるイマが。「今幸せですか?」と聞かれたら「はい幸せです」と多分答えるだろう。普段だったらそんな質問する奴殴ってやりたいけど。それでいいじゃないか。

動物園は以外と空いていた。今はもう人気ないのかな。
ただしは色んな動物を見るたびに「ウォー」とか「ウキー」とか「ムキキ」とか、かいもく何を言っているのか検討もつかない言葉をはっしながらはしゃいでいた。もしかしたら動物と話していたのかもしれない。んなわけないか。あいつが動物ならまだしも。うん。それはありえなくもない。その動物が襲いかかってきた。
「おじさんおじさん!楽しいね」
「そうだな」
「あそこにねぞうさんいたよ」
「おお」
「であそこにキリンさんいた」
「おお」
「であそこに」
「ちょっとまて。ここ動物園だからな」
「あーそうか!わーいわーい」
「初めてなのか?」
「うん!初めて!すごいね動物園」
「来てよかったな」
「うん。来れてよかった。嘘ついちゃったけど・・」
「え?」
「ううん。なんでもない。おじさんお腹へったー」
「おおそうか。なんか食うか?」
「うん。くう!」
幼い子供の口からでた「嘘」という言葉が妙に頭にひっかかったが、同時に子供だから嘘ぐらいつくか、とも思った。
そんなことを考えていた時不意に息苦しさを感じた。それに伴って視界が徐々に濁ってくる。足にも力が入らない。「あ~そうか」首に伸びてきている手が今ははっきりと見える。「こいつのしわざか」
「おじさんどうしたの?」
「いや、なんでもない」
「大丈夫?具合悪いの?」
「大丈夫だ。さあなんか食べようか」
「いいよ無理しなくて。家帰ろうか」
「もういいのか動物は?」
「うん。いっぱい見たし。すんごい楽しかったよ」
「そっか。ごめんな。じゃケーキ買って帰るか」
「いいよいいよ。もう帰ろうよ」
「いや誕生日パーティしたいんだ。ケーキにロウソク立てて火つけて、そんでお前がフーってやって火をけすんだ。なぁしよう」
「わかった。する。ぱーちいする!よし!ケーキ買って帰ろう」
「ああ」
「イチゴのってるのがいい。でふわふわなの」
「ありがとな」
「え?なんで?」
「いやいいんだ」

家に着くとすぐにただしの誕生日パーティを始めた。
イチゴののったケーキを箱からだしロウソクを七本たてる。
ロウソクに火をつけようとした時だった。
「おじさん」
「ん?どうした?」
「ごめん」
「なんだ急に。どうしたんだ?」
「おじさんに嘘ついちゃった」
「嘘?」
「うん」
「いいよ別に」
動物園でただしが不意に口にしたこを思い出した。気にはなっていたが所詮子供のつく嘘だ。今の自分にとって大事なのはそんなことではない。
「さあ火つけるぞ」
「ちょっとまって」
「どうした?」
「僕今日誕生日じゃないんだ」
「え?」
思いがけない嘘だった。子供がつく嘘とは思えない。キャバクラ嬢か援助交際中の女ならわからなくもないが。なんでそんな嘘を。
まさか?不意にひとつの考えが頭の中に閃く。それをもう言葉となって口からこぼれていた。
「お前もしかして誕生日・・明日か?」
「うん」
やっぱりそうか。そうだったんだな。
「でもなんで嘘なんか?」
言いながらきがついた。こいつは・・ただしは動物園に行きたかったんだ。一緒に。ただそれだけだったんだ。
「ごめんねおじさん」
「さあパーティの続きをしよう」
「え?」
「今日はお前と俺の七歳の誕生日だ」
「うん!」

                 
       ※
「父さんなんで?なんでなの?」
「ごめんな。ごめんなただし」
「だって約束したじゃん。明日動物園行くって約束したじゃん」
「ごめん」
「嘘つき!父さんの嘘つき!」
「許してくれただし」
「なんで?なんで死んじゃうの?」
「約束守れなくてごめんな」
「独りにしないでよー」
       ※
「父さん。僕今日動物園行ったんだよ」

 
すっかり日も暮れて辺りの暗さが一層深さをました頃
闇が恐怖を体に浸み込ませはじめた。
終わりは近い。

「今日は楽しかったな」
「うん」
「明日は何しようか」
「うん」
「遊園地に行こうか」
「うん」
「それとももう一回動物園行くか」
「うん」
「そんですしも食べないとな」
「もういいよ」
「・・・うん。ごめんな」
「なんで?」
「俺も嘘ついた」
「知ってるよ」
「明日の約束はできないんだ」
「いいよ。優しいんだね」
「そうか?」
「お母さんに似たんだ」
「はは。そうかもな。」
「にひひ」
「お前に会えてよかった」
「うん」
「ありがとう」
「うん」
「さぁお別れだ」
「僕はね」
「ああ」
「正義のヒーローなんだよ」
「知ってるよ」
「ただしを助けにきたんだ」
「もう充分助けられたよ」
「ううん」
「お前がいて俺がいた。もう何もいらないんだ。充分だよ」
「ムググ」
「なのになんでだろう。涙がとまらないよ」
「ううう」
「なぁただし」
「う?」
「頭なでてもいいか?」
「うう」
「はは。正義のヒーローは泣いちゃだめだ」
「ううう。泣いてないもん」
「またな」
「うう。明日は絶対くるよ」
「そうだな。明日も遊ぼうな」
「かんちょうだー!」
「いたいよただし」
「うう。おまじないだよ」

明日がこなくても
昨日がどんな日であっても
そんなことは関係ない
今がすべてなんだよ。今生きてるんだから。
あなたはいつも気まぐれで、怒ったり笑ったり泣いたり悲しんだり
楽しかったり辛かったり、でもそれでいいじゃない。
簡単には思えないけど、だって生きてるんだから。
死んじゃ駄目。絶対。
周りに誰もいなくても、決してあなたは
独りで生きてるんじゃないから。
あなたと僕と、過去と未来と、今と日常。
ゆっくりいこう。どんな一歩も。しっかり踏みしめてさ。
自分を信じて、あなたを信じれば
いつだってうまくいくから。

手の中にはサイコロ。もうそれを振る力は残ってない。
手のひらからこぼれ落ちたサイコロの出た目は一。
ゴールだ。終わったんだね。

「ねぇ母さん。僕は母さんの分まで、生きられたのかな」

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