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第二話 キマグレな天秤

20071127165207
親のサイフからこっそり一万円札を引き抜き、無事携帯を復活させることに成功した。
よしいい感じだ。都合の悪い事は全部忘れよう。
面接をかねた講習会と呼ばれるものが三日後。申し込みを済ませた。 ・ ・ ・
そして三日後。早い!あっという間だ。この三日間は、はやる気持ちを抑えランニングと筋トレをして過ごした。ちなみに親のサイフからは一万円札をもう二枚抜いた。

講習会と呼ばれるものは、いかにもと思われる雑居ビルの二階にある小さな部屋で行われた。壊れているエレベーター。古くて埃くさい階段。それがもう一つの世界へとかけられている。その段を一段上るごとに感じる粘着のある汚れた空気。徐々に濃度を増していく。
突き当たり。そこにはドア。体が重い。まるでこれ以上進むことを体が拒否しているようだ。
扉を開け中に入る。机と椅子がばらばらと置かれた会議室風の部屋に何人かの男が座っていた。その中の一人がやたらとガンをとばしてくる。「うっとおしい」自分のつま先に話し掛けながらとりあえず空いている椅子に腰をかける。エアコンが壊れているのか部屋は以上に蒸し暑い。
額の汗を拭いながら部屋の中を見回してみる。

部屋には男が三人。
自分の前に座る男は全身を軍服で飾り頭を真四角に刈り上げている。軍人マニアか?確かに体力には問題なさそうだが他に問題がありそうなのは誰の目にも明らかだ。
その隣に座る男?はやたらと髪が長い。オシャレというよりは伸びっぱなしと言った方が正しいだろう。コントのような分厚いメガネをかけ、絵に書いたようオタクの容姿をしている。こいつが体力に自信があると思っているのなら、それはもはや体力という言葉の意味をはきちがえているとしか思えない。
そしてさっきから必要以上にガンをとばしてくる隣の男。チンピラ。それ以外俺はこの男の例えかたを知らない。金のネックレスに金の時計に金髪のオールバック。
まてまてまてこいつら漫画か!なんなんだこの三人は。
最悪だ。早くも来た事を後悔し始めてきた。一刻も早くこの部屋を出たい。家の布団の中に帰りたい。
いかん駄目だ。変えるんだ。未来を。よし目をつむって違う事を考えよう。大金だ。大金を掴むんだ。

しばらくするとドアが開く音と共に一人の男が部屋に入ってきた。その男が四人の向かいに立つ。
明らかにこちら側の人間ではなさそうだ。細身で背が高く、高級そうなスーツを身にまとっているその男は一見仕事が出来る営業マンのようにも見えなくはないが、手首に光る腕時計、首にさげられたネックレス、フレームレスのメガネ、どれをとってもサラリーマンが買えるような代物にはみえない。
ある意味この男がこの部屋に一番似つかわしくない。

四つの面に囲まれた空間に現れたいびつな五角形。一つの点を中心に徐々に空間が歪み始める。

スーツの男が話しだす。
「皆様、本日はお集まり頂きまことにありがとうございます。私本日お仕事の説明をさせて頂きます金沢と申します。」
「おい!暑いんだよ!とりあえずこの暑さなんとかしろよ!」
横のチンピラが喚いた。
「大変申し訳ありません。クーラーが壊れてまして、少々我慢して頂いてもよろしいでしょうか」
「はい!」
目の前の軍人マニアが意味のない返事をする。
隣から舌打ちが聞こえる。オタク野郎は汗でずり落ちてきたメガネを必死になおしている。
それらを受け止め微笑みを浮かべる金沢という男。

「それでは話を始めさせて頂きます。まず今回皆様にして頂くお仕事ですが」
一瞬の間。
「銀行を襲って二億円を奪って頂きます」
一瞬の静寂。一瞬の困惑。一瞬の逃避。一瞬の停止。
銀行強盗?二億円?その単語だけだ止まった時の中でふわふわと空中を漂っている。何だこれは?冗談か?漫画か!あっ二度目だ。
「ふざけんな!そんな話聞いてねぇぞ!」
時間がゆっくりと動きだす。
その通りだ。さすがチンピラ。こういう時は頼りになる。
「お静かに。話はまだ終わってませんので。最後まで話を聞いて頂いた後、何か質問があれば受け付けますので、それまでの私語は一切ご遠慮下さい。あと本日来て頂いた四人様には交通費として10万円ご用意させて頂いておりますので。」
交通費に10万円。ばかげてる。そんな話聞いたことがない。ただ実際に目の前に置かれると不思議と現実味をおびてくる。もはや口をひらくものはいない。四人の男を黙らすには実に巧妙な手段だ。

蒸し暑い部屋で男の話がたんたんと進む。まるで世間話をするように。

「皆様に銀行を襲って頂くといってもご安心下さい。全てこちらで段取りをとらせて頂いているので危険なことは何一つありません。
閉店直後の銀行にいるのは従業員6人とガードマン1人。この7人全員が今回の強盗の協力者であります。
要するに銀行強盗の恰好をして形だけの銀行強盗をして頂き、お金を持ち帰ってくる、ただそれだけのことです。
当然顔はかくしてあるし、従業員側の証言は偽証しますので決してこの先警察に追われることはありません。万が一のために四人様のありばいはこちらでつくらせて頂きますので。
銀行側の人間には臨時ボーナスをださせて頂きますし、盗まれたお金も保険がおりますので全く銀行側には問題がありません。
大事なのは世間に銀行強盗が起きたとみせかけること。ただそれだけです。」
一瞬の呼吸。
「何かご質問は?」
「ちょっと待て!ふざけんなよ!そんなうまくいくのかよ!」
チンピラにもはや最初の勢いはない。それは目の前に出された万札のせいなのか、男の冷たくて重い声のせいなのかさだかではない。
「確かに世の中に絶対はありえません。不測の事態が起きることも考えられます。ただ申し訳ありませんがその場合こちらとしては責任は一切おいかねます。」
「はい!」
意味のない軍人マニアの返事。
相変わらずオタク野郎はメガネを支えている。
「冗談じゃねぇ!」
頑張れチンピラ!
「ただこちらの指示通り動いて頂ければ九割九分結果は見えております。大丈夫ですよ。不測の事態なんて起きませんから。
まぁ残りの一分を恐れて今まで通りの生活に戻って頂いてもけっこうですが。
もしこの仕事を受けて頂けるのであれば、その一分の危険を考慮しまして、成功報酬の半分の100万を前金として本日お渡しします。
さぁどうしますか?
自分の力で自分のこの先の人生を切り開くかどうか、決めるのは皆様自身ですよ」
交通費10万、成功報酬200万、仕事を受ければ今100万。全てが馬鹿げている。二度あることは三度ある。もはやこれは漫画としか思えない。

「やります!」
迷いのない軍人マニアの返事。
「やるよ」
ふてくされたチンピラの返事。
「…やります」
消え入りそうなオタク野郎の返事。
おいおいおいこいつら正気か?こんな怪しい話ないだろ。何か必ず裏がある。うまくいくはずなんかない。そうだ、うまくいくはずなんか…ただ目の前には大金。このまま引き返してもそこには何もない。変わらない日々。ここにくれば何か少し変わると思っていた。たとえそれが間違った方向でも。

「あなたはどうしますか?」
金沢という男が微笑みながら言う。まるで断れないのを知っているかのように。
一瞬の狂気。一瞬の迷い。一瞬の失意。一瞬の覚醒。
当たりだよ。
「やるよ」
所詮現実と常識は置いてきたんだ。ここに来た時点でこうなることはわかっていたんだ。
薄っぺらな自分。そんな自分を信じて。大丈夫だ。きっとうまくいく。
「ありがとうございます。でわ四人様引き受けて頂けるということで、最後に当然の事ですが今回のお仕事に関して相手が誰であろうと決してお話しないように。
あとまぁ大丈夫だと思いますが、本日お渡ししたお金を持ち逃げしようなんて馬鹿なことは考えないで下さいね。当日たとえどんな理由があろうと欠席は認めませんので。その場合は本日お渡ししたお金と欠席の代償を回収させに行かせて頂きますので。
まぁそんなことはこちらの指示通り動いて頂ければ一切ございませんので、安心して大金を受け取って今後の人生を楽しんで頂ければと思います。
でわ宜しくお願いいたします」

なるほど。確かにこの仕事は笑えない。

自分で望んだ変化。それは思いもよらぬ方向へ進み始めた。加速するスピード。それに合わせて強くなる空気抵抗。視界に映る空間はもはや原型を留めていない。うっすらと見えるハンドルを握る手。その手の中には夢にまで描いた万札の束。ただ思いのほかそれは冷たくて軽く感じた。

これが漫画ならこの先必ず何か起こる。すんなりうまくいく話なんて読者は決して望んでない。仲間の死、裏切り、大どんでん返し、死んでなかった仲間、その仲間の二度目の死、何度でもよみがえる仲間、そしてどこにでもあるありきたりなハッピーエンド。

凶暴で気まぐれな現実。何もなくていい。ありきたりなハッピーエンドさえあれば。

天秤の上で揺れる一分の希望と一分の不安。
一瞬の重み。
一度傾きを始めた天秤の、均等を保つことは誰にもできない。
静かに。ただゆっくりと。片方は上がり。片方は落ちていく。

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