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テヲノバセバそこに

20080224235119
決戦は金曜日、というドリカムの歌があった。よし、今日は金曜日だ。13日の。

家を出る前に親の財布にこっそり万札を三枚差し込む。
「いってきます」
返事はない。何年ぶりだろう。こんな言葉を言うのは。
朝はいつも通り静かで、冷たい空気がいつもより少しだけ心地よく感じた。
「バタン」自分の後で聞こえる扉がしまる音。

始まりはいつだって変わらない日常を少し鮮明に見せてくれるものだ。

待ち合わせ場所には軍人マニアが一人立っていた。
「どーも」
軽く声をかけてみた。
「お疲れ様です!」
まだ疲れてはいない。
「なんかドキドキしますね!」
早くも話しかけた事を後悔してきた。
「そうですね」
「あの~銃とかってぶっ放しちゃってもいいんですかね?」
「いやよくないですね」
勘弁してくれ。
「いやいやいや!人撃つわけじゃないですよ。脅しですよ脅し」
「本気で脅す必要ありませんから」
「やっぱ男だったら銃持ったら撃ちたくなるもんでしょう!」
「なりませんね」
「いや~テンション上がっちゃうな~!」
こいつを撃ってやりたい。
「あの~」
「うわぁびっくりした」
オタク野郎が立っていた。
「すみません」
「来てたんですか?」
「はい。少し前から」
「声かけて下さいよ」
「何回かかけたんですが。お話してたんで…」
「え?え?」
「お話し…んで…」
「あぁ…はい」
駄目だこいつの話は七割聞き取れない。
「お疲れ様です!」
「あっはい…すみません…」
この二人の声のボリュームを足して割れたらどんなに耳にいいことだろう。

待ち合わせ5分前。いまだチンピラはやってこない。何やってんだあいつは。だからチンピラは嫌いだ。ついでに軍人マニアもオタク野郎も。
「うぃー」
チンピラが暢気にやってきた。
「遅いですよ」
つい口から出てしまった。
「あん?うるせえよ!間に合ってんじゃなぇかよ」
「そういう問題じゃないでしょう」
「びびってんじゃねえよ。言われた通りやるだけだろ。楽勝だよ。さぁサクッとやって帰ろうぜ」
本当にサクッと終わったらお前に頭を下げてもかまわないよ。
「じゃあ最終確認しましょう」
「面倒臭せえな」
チンピラが煙草に火をつけるが無視して続ける。
「まず全員の時計を合わせましょう」
「おぉ!なんかそれっぽいですね!」
「ちょっと黙っててもらえませんか」
「失礼しました!」
「車は大丈夫ですよね?」
オタク野郎は運転担当だ。
「はい…近くにとめてあります。道順も昨日確認しておきました。時速60キロでまず第一ポイントまで10分で行ってそこで車を乗り換えて」
「落ち着いて!大丈夫信用してますから」
「はいすみません。なんか緊張しちゃって…」
「大丈夫です。僕も不安ですから。ただ声をもうちょっと大きくしてもらえると助かりますけど」
「あっすみません」
「でわ5分後きっかりに車を銀行の前に着けて下さい」
「はい。わかりました」
「お願いします。あなたは従業員、警備員を脅して下さい。形だけでいいので」
「了解しました!」
「くれぐれも銃は撃たないで下さいね」
「臨機応変に対応します!」
「けっこうです」
こいつの臨機応変ほど信用出来ないものはこの世にはない。
「あなたは」
「うるせえな!いつからお前がリーダーになったんだよ!」
「そんなつもりはありませんよ。ただ」
「わかってるよ。バックを交換すんだろ」
「お願いします」
「お前にお願いされなくてもやるよ」
「そうですか。それは安心しました」
「もういこうぜ。時間だろ」
チンピラが煙草を靴でもみ消す。
「あの~…煙草……」
「あん?」
「あっいや…」
オタク野郎は見掛けによらず地球の事を考えているようだ。ただ今はそれどころじゃない。自分の事だけ考えればいいんだ。
まぁ…でも…。煙草の吸い殻を拾ってポケットに入れる。
「いきましょう」
最初で最後の銀行強盗。体内の三分の二の水分が一瞬で脇に集まってきた。やるしかない。 : :
時計の針が進んでいく : :
5分後。
銀行の前に車が止まる。それに乗り込む三人の男。車が急発進する。
「ハァハァハァ。やったなおい!うまくいったぜ!」
「やりましたね!」
「おう!」
「ミッション完了ですね!」
「うまくいったんですか?」
「はい。ちゃんと段取り通りいきましたよ」
「よかった。あっこれ」
オタク野郎が灰皿を差し出してきた。
「気が利くじゃねえか」
チンピラが煙草に火をつける。お前のためじゃないよ。まぁそんな事どうでもいいか。
ポケットの中の吸い殻を灰皿に入れる。
「ありがとう」
オタク野郎が少しだけ微笑んだようにみえた。
「いや~興奮しましたね!生きてるって感じがしてたまりませんでしたよ!」
「いつ発砲するんじゃないかと思ってドキドキしましたよ」
「いやだな~撃ちませんよ。はっはは!」
「ははは」
「ふん」
「ははは…」
誰もが緊張していたのだろう。当然だけど。その緊張から開放された四人には不思議と笑顔がこぼれていた。安堵と達成感が車内を包む。少しだけどこいつらを好きになった。
うまくいった。誰もがそう思っていたし、実際に全てが段取りどおりに進んでいた。全てが段取りどおりに。

10分後第一ポイントに到着した。
「車を乗り換えましょう」
オタク野郎の声は随分と聞きやすくなった。
車を乗り換え再び走り出す。
あとはこのお金を指定された場所に届けるだけ。それで俺達は大金を掴む。そして人生を変える。あと少し。あとほんの少しだ。

『……本当か?』
手の平から滑り落ちる一滴の汗。その汗を吸収して土から芽を出す不安の種。

「おいちょっとバックの中の金おがんでみようぜ!」
「余計な事しない方がいいですよ。もうすぐなんですから」
「堅いこと言うなよ。いいじゃねぇかよ見るだけなんだからよ。別にパクったりなんかしねぇよ」
たいていチンピラはこういう事を言い出すものだ。
チンピラがバックのファスナーに手をかける。自然と四人の頭がバックに近寄ってくる。何気なく目を合わせそれを合図にチンピラがファスナーを少しづつ横にずらす。
「あん?」
最初に口を開いたのはチンピラだった。
「え?」
「おい。なんだこれ?」
「新聞紙ですね」
軍人マニアが馬鹿正直に答える。
「わかってるよそんなこと!」
なんだ?なんだこれ?目の前にある現実。ただ脳がそれをかみ砕いて飲み込むことができない。

芽は恐ろしい勢いで成長していく。
『マズイ…』

「何でここに新聞紙が入ってんのかって聞いてんだよ!」
「なんで新聞紙が?」
「なんで金が入ってねぇんだよ!おい!金はどこにあんだよ!」
「知りませんよ!」
「おいどうなってんだよ!金は!金は!金はー!」

バックの中にあるはずの僕らの未来。それはいつのまにか新聞紙にすりかわっていた。

「あなたがバックを受け取ったんでしょう!」
「おい!俺がミスったって言いてえのかよ!」
「そんなこと言ってませんよ!どうなってんだいったい…」
「意味わかんねぇよ!」
「あの~さっきから自分は全く状況がつかめないのですが、この新聞によると中日が巨人に勝ったもよ」
「黙ってろ!!」
初めてチンピラと息が合った。誰かこいつを殺してくれ。もしくはこいつの大好きな拳銃を口にぶち込んでくれ。

いったい何がどうなってるんだ。バックの中にあるはずの金はどこだ。落ち着け。落ち着け俺。俺落ち着け。俺落ち着け俺。

車内は一瞬のうちにパニックに陥った。喚き散らすチンピラ。震える手でハンドルを握るオタク野郎。ひたすら新聞を読み耽る軍人マニア。

見えないツルが体に絡まってくる。
『何かがおかしい』

チンピラが怒りにまかせて灰皿を投げ付ける。
「うわっ…」
怯えるオタク野郎。
はずみでラジオのスイッチが入る。
「ガガガ…」
「うわわっ…」
再び怯えるオタク野郎。
何処かで犬がワンと泣く。「うわわわっ…」
怯えるオタク野郎。多分。

突如ラジオから流れる女性の声。その声に四人が耳を奪われる。
「つい先ほど起きました銀行強盗ですが目撃者の証言が入ってきました。犯人は四人。一人は金髪でチンピラ風な男、一人は体格がよく頭を角刈りにしている男、あとは平均的な若い男と、車を運転しているのが長髪で黒ぶちメガネをかけた小柄な男、以上たった今入ってきた情報です。」

………何……が……どう…………………なって………………………………………………いる…………………?…。

巨大な『?』マークが突然車に乗り込んできた。さすがにどんな馬鹿でも気付いたようだ。そりゃそうだ。だってまだ誰ひとり覆面マスクを脱いじゃいない。

「これって…どういうことですか…?なんで…僕らの顔がばれてるんですか?」
「ちょっと待って!今考えてるんですから。なんでだ。なんで俺らの顔がばれてるんだ。どこかで見られた?いやそんなはずはない。じゃあなぜ?誰かがばらした?いったい誰が。誰がばらしたんだ……!!」
咄嗟に携帯電話に手をのばしプッシュボタンを押す。
「お客様がおかけになった電話番号は、現在使われておりません…」
最近似たような事があったが理由は多分大違いだろう。

小さなつぼみがゆっくりと黒い花を咲かす。
『やられた…』
「え?」
「車を止めて下さい!」
「え?でも…」
「いいから早く!」
「あっはい」
タイヤが擦れる音と共に車が急停止する。
「おい!なんだよいったい!どうしたんだよ!」
「車を降りましょう」
「はぁ?なんでたよ!金届けなくていいのかよ」
「その金はどこにあるんですか!」
「知らねぇよ!」
「金はもうとっくに届けられてますよ。とにかくこの車は危険です。そのうち警察に見付かりますよ」
「意味わかんねぇよ!説明しろよ!」
「時間がありません。とりあえず後で」
周りを伺いながら車の扉を開ける。警察はまだ近くにはいないようだ。
「ちょっと待てよ!」
「残念ながら自分もいまだ状況が掴めません!」
「僕もです…」
馬鹿は死ななきゃ治らない。自分も含めてだが。

「はめられたんですよ」
「はめられた?どういうことだよ!」
「はっははははは!」
「笑ってんじゃねぇよ!」
チンピラに胸倉を掴まれる。
確かにうまくいってたんだ。全てが段取りどおりに。その段取りを疑うなんて考えもしなかった。笑うしかない。

「騙されたんですよ!僕たちはまんまと本物の銀行強盗に仕立てあげられたんですよ。手ぶらでね。」
「「「えっ?」」」
「全部仕組まれてたんですよ!あれは確かに形だけの強盗だった。ただどう考えたって本物の犯人役が必要でしょう。それを用意するとあいつは言った。でも本当はそれが僕らだったんですよ。あいつは僕らを利用して何もせず四億を手に入れたんですよ」
「ふふふざけんじゃねぇぞ!!」
「僕に言わないで下さい!」
「そんな…そんな…」
「自分には全く理解できないー!!」
「とにかくここを離れないと。この車のことだってとっくに警察に漏れてますよ」

不思議と頭が冴えていた。今やるべき事が考える前に口から出ていた。体が自然と留まっている事を拒んだ。こんなの初めてだ。
かっこいい。今の俺ちょっとかっこいい。好きな女の子に見てほしい。無我夢中で走りながら一瞬だけそんなことを思った。

大迷路をゴールするには、自分の右手の壁に常に右手をつけて歩けば必ず出口にたどり着く。どれだけ時間がかかろうと、どれだけ行き止まりにぶつかろうと、決して右手を壁から離さなければ。

『その壁を探して』

「…これからどうしますか?」
「どうしましょうか」
「チクショーあいつらふざけやがって!ぶっ殺してやるよ!」
「走るって気持ちいいですね!」
相変わらず会話になってない。

甘い香りを漂わす黒い花。さしずめ僕たちはそれに誘われ群がっている蜂といったところか。
お尻についた小さな針。その針だって時には致命傷を与えることだってできる。
「いきましょう」
「えっ?何処に?」
「このままここにいても、ここにいなくても、先は見えてますよ」
迷いや恐れは自分でも驚くほど無かった。
「走りますか!」
「ははは」
「え?」
「そうですね。走りますか。走って取り返しに行きますか」
「「「え?」」」
「取り返しましょう。あれは元々僕らの金だったんだ。あっいや違うか」
「マジでか!」
「マジです」
「…本気ですか?」
「本気です」
「正気でありますか?」
「お前に言われたくない!」

俺はただただ腹が立っていた。金沢という男に。耳に張り付くラジオの声。「あとは平均的な若い男……」
あいつを殺してやる。

どこにでもあるただの壁。だと思っていた。でも違った。間違ってた。大切にするものを。

そっと自分の右手を伸ばしてみる。その手が壁をすり抜ける。
なるほど。どうやらこの大迷路には、そう簡単に僕たちを出口へ導く気はなさそうだ。
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