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その目に見えるモノ

20081010130123
食事を終え店を出てコンビニへ向かう。
祝日であるせいか、いつもはサラリーマンで溢れる店もコンビニも人は少なくBGMがやたらと耳につく。レジへ向かう途中緑色のTシャツを着た男とすれ違う。その男は右手に裸のウィダーインゼリーを握りしめていた。
レジにて番号で煙草を指定し500円を払い180円を受け取る。中国人店員がカタコトで感謝の言葉をのべる。バイト募集のチラシには時給850円と書かれていた。

コンビニを出て携帯電話を取り出しプッシュボタンを押す。ほどなくその小さな機械から相手の声が聞こえてくる。
喋りながら歩道を歩く。車の走る音。誰かの笑い声。いつもの暑さ。
最初に違和感を感じたのはそんな時だった。

『見られている?』

立ち止まり後ろを振り向くと一人の男と目が会う。その間3秒くらいだろうか。男が目線をそらす。坊主に緑色のTシャツに迷彩パンツに黒ブーツ。そして黒いリュックサック。
人と目が合うことじたいはよくあることだが、その男の瞳孔があまりに開いていたことと、その男との距離感が妙に引っ掛かった。

その男は手を伸ばせば触れる距離にいる。

多少の気持ち悪さを感じながら再び歩き出す。一度立ち止まりポケットから煙草を取り出そうとして、ここが路上禁煙区域だと思いだし煙草をポケットにしまう。歩き出す。
自分の足音に合わせて聞こえるもう一つの足音。立ち止まり。歩き出す。

最初に感じた違和感が徐々に体に纏わり付いてきている。

『あれ?つけられている?』

後ろを振りかえる。さきほどの男がこちらを見ている。瞳孔の開いた目で。

『マジか?』

全身の毛がゆっくりと逆立つのを感じる。

『なんだこれ…』

電話の向こうから聞こえてくる声は徐々に現実みを失っていく。
真っ直ぐにのびる一本道。まだ後をつけて来ているとは限らない。気のせいだと頭に叩き込み少し歩を速める。

横断歩道にぶつかる。前にのびる歩道と左にのびる歩道。前にのびる歩道の信号は赤く光っている。左へのびる歩道の信号は青。
どうするか少し迷い、目の前の赤信号に体を向け立ち止まる。後ろから感じる刺すような視線。自分の視界の左隅に、左の青い光が点滅を始めるのをとらえる。1回、2回、3回。4回の点滅を目の隅で確認した瞬間、体を一瞬で左に向け点滅する信号を足速に渡りきる。息が少しきれる。
もう何度目だろう。後ろを振り返る。いつもと変わらない風景。緑色のTシャツを着た男が、ただそこにいる。

『マズイな…』

もはや手に持っている携帯電話は子供のおもちゃでしかない。

『どうしたらいい』

そもそも後をつけられる理由が全く思いつかない。なんだいったい。なんなんだこいつは。

とりあえず目的地のビルまで到着する。その前で携帯電話を片手にその男の様子をうかがう。明らかにこちらを見ている。不自然に視線をそらしたり、挙動不振な動きをしたり。

『あいつは普通じゃない』

目の前のビル。自動扉が付いている。まさかこの中までは入ってこないだろう。携帯電話をきる。ポケットにしまう。その男を見る。よし。こっちを見ていない。いけ。
右足でセンサーをキャッチし体を自動扉の中にねじこむ。エレベーターまではほんの数メートル。なんとかたどり着き上ボタンを押す。

『ついてない』

エレベーターは2機とも6の数字の上で光っている。その光がゆっくりと数字を下ってくる。5、4、3。
薄暗いエレベーターホール。静かで。誰もいない。
焦る気持ちを指に込め上ボタンを押す。押す。押す。

「ウィーン」

背後で聞こえる自動扉の開く音。

『間に合わなかった』

もう振り返る必要はなさそうだ。徐々に近づいてくる荒い息遣いの音。ゆっくりと視界に入ってくる緑色のTシャツ。
男は。そこにいる。

エレベーターは1階に到着し、無情にもただ開き誰も乗せず閉じていく。

『密室は危険だ』

間近にある男の体。肉付きがよくたっぱもある。この男から逃げ切るのは難しそうだ。なぜ自分がこの男につけられているのか。全く意味がわからない。

『本気でなんなんだいったい』

とりあえず距離をとる。残された方法は一つ。
「どうしました?」
その男に声をかけてみた。反応がない。瞳孔の開いた目でこちらを見ているだけだ。
「なにかしましたか?」
もう一度声をかけてみる。微かに動く唇。今度は反応があった。ただ何を言っているのかよく聞こえないが小声で何か言っているようだ。
その男の両手がポケットの中に入れられモゾモゾと動く。

『まさか…ナイフか?』

体に緊張が走る。男は視線を反らし小声で自問自答している。入れ代わりに現れる二つの顔。あきらかにこいつはどこかおかしい。何を言っているのかはっきりとは聞こえない声。そしてこちらを見る。
男と目が合う。不思議な目をしている。ガラス玉のようにキレイで底の見えない空虚のような。吸い込まれそうだ。
その目とどれくらい見つめ合ったのだろう。男は動かずただこちらを見ている。

頭の中に浮かぶさまざまな事。ナイフがでてきたらどうしよう、刺されたらどれくらい痛いんだろうか、あの人にはお世話になった。死にたくはない。ということ。ただそれだけ。
暗がりのエレベーターホールに、ただ静寂だけが続く。

しかし変化は必ず訪れる。その瞬間自然と両手に力が込められる。
男は突然小さな奇声をあげ体を反転させその場を去っていった。
自動扉の開く音。男が一瞬振り返り小声で何か言ったような気がした。その後ろ姿が消えるのを見届けた後、一つ息を漏らす。

『あぶなかった』

手には涼しくなった秋には似合わない汗がじんわりとにじんでいる。
その手でエレベーターの上ボタンを押す。乗り込む。荒っぽい音をたて。扉が閉まる。

いったいなんだったんだろうか。訳がわからない。
ガラス玉のような目。もしかしてあの男は自分に何かを伝えたかったのだろうか。いったい何を?

『考えすぎか』

結局何もわからない。
それが一番恐ろしかった。

恐怖はありふれた日常の中に確実に溶け込んでいる。
その中にいることを久しぶりに思い出した。
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タイトルなし

今年も愛すべき馬鹿に缶ビール一本の安らぎを。

あなたが背負い投げした場所は、今も変わらずありましたよ。
あなたが旗揚げした劇団は今も変わらずありますよ。
あなたが好きだった人達は、今も変わらずあなたの顔を覚えていますよ。

一日遅れてごめんなさい。
ただ365分の365。
変わらずに今も。

てのひらの小石

20081001012859
蒸し暑く狭い控室に息を潜めて佇む何十人もの男女。時折聞こえる客の笑い声。心臓の音が一定のリズムを刻む。

震える体。喉はいつまでたっても潤わない。たった一本の線で区切られた、明るい世界と暗闇の世界。
空気を伝わってくる何十もの鼓動が、全身の毛をゆっくりと逆なでる。
足元をみる。震えは止まっている。そばにいる二人の存在が体に纏わり付く恐怖をほんの少し引き受けてくれた。
高鳴る鼓動。こんなにワクワクするのはいつ以来だろう。考えるのをやめる。必要ない。あとは。この瞬間を。三人で楽しむだけだ。
明るい世界にゆっくりと足を踏み入れる。

僕たちは無敵だ。

『二分間の物語』

興奮した身体が止まることを拒んでいる。息が荒い。息が臭い。胃が痛い。

ミンティアと胃薬を一錠。

なんとか落ち着いた身体で居酒屋に向かう。
渇ききった喉を通るビールが少し脳を麻痺させる。
体の中に染み込むたばこの煙が心臓の動きを少し緩めてくれる。

何かを自分で始めたのはこれが多分初めてだろう。遅いのか早いのか。それはそのうちわかることだが、まぁとりあえずそんな事はどうだっていい。今はとりあえず全身を包む達成感と、世界一うまいビールの味にほんの少し酔っていたい。

地上へと続く階段。それを上がるとそこには思いもしなかった雨の風景。その中を濡れながら走る。三人を守る真っ黒な日傘一本が、妙に心強く思えた。
結果は全身濡れたけど。

松岡修三は言う。『これはよくやったとか、頑張ったって言葉じゃかたずけられないですね。快挙です!』と。ギラついた目で。

スーパーフライは歌う。『愛せ 満点の取れない相変わらずの毎日 ナンセンス 躊躇しないでよ そうDon't stop 君の挑戦 』と。

池に住むメタボな女神は言う。『自分の中では今日がスタートだ』と。

11時30分。予選結果発表。

その30分後今日は裏返り昨日に変わる。
気まぐれな雨に濡れていた服はいつの間にか乾いて、もう次への準備にとりかかっている。まぁ一回洗うけどね。
それからだ。

なんとかしたかった。

はじまりは。上々である。

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