FC2ブログ

タイトルなし

20060710024515
落ちている物を拾うという行為は、拾う物によって他人から見る評価が大きく異なってくる。空き缶やタバコの吸い殻を拾えば、「なんて素晴らしい人なんだ」と褒められ、小銭を拾ってポケットに入れれば「恥ずかしい」と陰口をたたかれる。故に人はオーバーにゴミを拾い、気付かれないように小銭を拾うものである。

『最初に配られたカードは思ったより悪くなかった』

足元に落ちている1枚の紙きれを目にする。それを手にする。そこには「陽気なギャング~」と書かれている。どうやら映画の半券のようだ。偶然だがこの映画には非常に興味があった。原作を書いた伊坂幸太郎の本が僕は好きだし、この映画にでている役者も魅力的だからだ。「そういえば隣の映画館でやっていたな」。そんなことを考えながら1日を過ごす。

『手持ちのカードは順調に減っていく』

外に出る。昼間の突然の雨が嘘のように晴れ渡っている。風が気持ちいい。駅に向かう途中ふと「映画でも見ようかな」とそんな気分になる。気付くと足は来た道を引き返していた。映画館の前につき、携帯の画面に目をやる。どうやら上映は1時間後のようだ。そこまで思い通りにいくわけはないが待てない時間でもない。しかも今日は水曜日ということでチケットが1000円という、よくわからない割り引きデイのようだ。
列に列ぶ。後からボリュームのつまみの壊れたスピーカーのような勢いで女の声が耳に突き刺さってくる。「ギャングとかって超カッコイイよね~。ヤバイんだけど~」と隣の彼氏らしき男に話しかけている。彼女が考えるギャング像や、「ヤバイ」という意味には非常に興味があったのだが、残念ながら彼女の声の大きさ故それを聞く気にはならなかった。これ以上耳に悪影響を与えることはできれば避けて通りたい。ただ本当に残念だったことは隣にいた男があまりにも一般的に考えられるギャング像とはかけ離れていたことだ。
ギャングは視力の為のメガネをかけてはならない。
これは僕が考えるギャング像の一つである。

『隣の男にためらわずDraw2をくらわす』

そうこうしているうちにカウンターの前に辿り着く。カウンター越しに女性が全席指定だと言い空いている席を案内してくれる。僕はその女性が2番目に指差した席に決める。1番最初にすすめてくるものは、良さは充分にわかるがなんだか力が入り過ぎていて肩がこる。かと言ってある程度の順番がたてばそれはあきらかに残り物の臭いがぷんぷんする。そこそこでいい。全てのことに最高を求めていたら、それこそ「今日は最高の天気だから、この最高の服を着て、まぁなぜこの服が最高かと言うと…」と考えただけでも、目眩がしてくる。

『隣の男をノリノリでSkipする』

まぁはっきり言ってしまえば映画館での席が多少良かろうが悪かろうがそんなことは問題ではないのだが。厄介なのは隣の席の男のポップコーンの食べ方が下品だったり、開始3分でいびきをかきだすとか、または隣に声がでかいギャング好きの女が座るなど、そういった類のことだ。

『Returnにより場が逆に回りだす』

無事チケットを購入し、しばらく時間を潰す為にドトールに向かう。カウンターの席に座りガムシロを1つ入れたアイスラテに口をつけた時、あることに気付く。というか気付かされる。「そうだ。今日は朝からお腹の調子が悪かったんだ」

『まずい…』

完全に迂闊だった。お昼から何も口にしていないためか、完全に忘れていた。チケットを購入した今もはやこのまま家に帰るわけにもいかない。「どうするべきか」と考えるより先に体はトイレに向かっていた。はたしてこの痛みはおさまるだろうか。不安の波が襲ってくる。
「そうだ。僕は不安になるとお腹の調子が悪くなる方だ」

『隣の男から復讐のDraw4をあびせられる』

時間を潰す為に入ったドトールでアイスラテを8割残し無事時間を潰すことに成功した。

『拾ったカードでDraw4を手に入れる』

多少の不安を残しつつ再び映画館に向かう。久しぶりの映画に少しドキドキしている。不思議とそれが心地良かった。

『戦いの準備は整った』

入口の横に立つ男にチケットを渡し、半分になったチケットを受け取る。アルファベットと数字を頼りに自分の席を探しながら館内を歩く。なんとなくこの瞬間が好きだ。
隣に座る男は呼吸の音さえ聞こえない静かな男だった。

『再びReturnにより場が逆に回りだす』

上映前にトイレを済ます。映画を見る為のマニュアル本があるとすれば
1.まず自分の座席を確認する。2.その後トイレを済ます。3.ポップコーンとコーラを注文する。4.ひじ掛けは片側のみを使用する。
などと書かれているだろう。ベストセラーは望めないが。

『ウノのルールは大貧民同様地方様々である』

ゆっくりと照明がおち、映画の予告が始まる。想像通りにそれが長い。ただその予告で見た映画は全てが素晴らしい作品に見えてしまうから長くやるのもわからなくない。ここにはそんな不思議な力がある。ただ映画が終わる頃には残念ながら忘れさってしまうのだが。

『隣の男の息の根を止めるべくDraw4をたたき付ける』

程なくして本編が始まる。巨大なスクリーンに写しだされる派手な映像に、物語を盛り上げる派手な音楽。時折おこる笑い声に多少の嫌気を感じつつも、気持ちは高鳴っていった。久しぶりの映画館にしばし酔いしれる。
そんな時事件は起きた。

『Draw4がDraw2で反せるというルールを今初めて知らされる』

物語は中盤に差し掛かったくらいのところだ。信じられないがトイレに行きたくなったのだ。

『バカな……』

お腹の痛さが振り返してきたわけでわない。そんな事はとうに忘れていた。ドトールでトイレに行き、映画館でもトイレに行った。なのになぜ……。

『自分でだしたDraw4が1周回って自分に襲い掛かってきた』

集中が切れてしまった今このまま映画を楽しむのは難しい。ただ今席を立つのはどうも気が引ける。映画の内容も気になるし。終わるまでにはまだ少し時間がかかりそうだ。もしこんな時自分の中に正確無比な体内時計があったとしたら、今は始まって何秒で終わりまでは多分あと…ととてもじゃないが我慢するのは無理だろう。
物語はスピードを加速し終わりへと近付いていく。それに合わせて自分の限界も徐々に迫ってくる。もはや映画の内容はぼんやりとしか頭の中に入ってこない。頭の中で必死に「まだか。終わりはまだか。」と呟く。もしこんな時自分がスリの達人だったとしたら、きっと周りの目を盗んでそっとトイレに行っただろう。ただ残念ながら僕はスリの達人ではない。もちろんギャングでも。
とにかく必死だった。必死に我慢し、必死に気をそらし、必死に映画の終わりを願い、「ちょっとまてよ。なんでせっかく映画館に来てこんな必死になってんだ?」と一瞬我にかえり、最後には「全ての物を投げ出し、この後どんな困難が待ち受けていてもかまわないから、今すぐトイレに行かせてくれ!」と子供のように神に祈っていた。その時、そんな思いが報われたのか、たんなる時間の経過だったのか、ようやく待ちに待った終わりが訪れる。

『度重なる苦難を乗り越え最後の1枚のカードをきる』

ただそこで2つめの事件が起きる。

『あがったつもりがウノを言い忘れていた』

エンドロールが始まり席を立とうとしたその瞬間、一人の男が唐突にお客に問い掛けたのだ。「映画の終わりはどこなのか?」と。そして「それは客席の電気がつくまでだ」などと延々と喋り続けたのだ。しかもその男が演説の達人であったものだから、これほど厄介なことはない。全員がその演説に聴き入り、エンドロールにもかかわらず映画同様その場を離れる者は一向に見当たらなかったのだ。

『Draw4をSkipで飛ばせるというルールを強引に押し通す』

長い長いエンドロールが終わり、静かに客席の電気がつく。足早にトイレに向かい、安堵の声をもらす。「あ~間に合った」と。

『冷たい視線を感じながら無事Draw4を回避する』

長かった戦いに無事幕を降ろしエスカレーターを降りながら、映画のことを思い出す。劇中何回かでてきたセリフで「ロマンはどこだ」というのがあった。このセリフは原作にもあって僕は凄い好きなセリフだった。誰にも聞こえないような所で、このセリフを僕は3回くらい言った記憶がある。ただこの2時間の中にロマンがあったとはとても思えない。確かに個人的なロマンはあったが、写しだされる映像にそれは感じなかった。期待しすぎたのかもしれない。

『心なしか周りの人間がウノに飽きてきている』

映画を見終わった後の感想をカメラにぶつける映像で「こんな感動した映画は今まで見たことがない」とか「今年1番の映画です」だとかいうものをよく目にするが、もし自分に嘘を見抜く力があるとすれば、とてもじゃないがこの映画のそういった映像は見られないだろう。
1階に辿り着く。暗くなった空に改めて今自分が映画館にいたことを実感させられる。受付にいた女性の姿はもうない。

『最後の1枚を残しカードをきりウノと言葉を発する。』

1枚の紙切れから始まったひょんな1日。
もし僕が演説の達人ならこの日のことをどんな風に人に話すのだろう。と、ふと考えてみる。

『誰にも聞こえないようにして「ロマンはどこだ」と囁いてみる』

スポンサーサイト



コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://sakaizawa.blog23.fc2.com/tb.php/11-102f7503
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

<<  | HOME |  >>

プロフィール

堺沢

Author:堺沢

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する